※R18


 は、と息を吐く。そんなことを何度も繰り返していた。熱を帯びた息は閉め切られた室内で行き場をなくし、あたりに充満する。暑いと感じる原因のひとつはこれだろう。暑いのならば冷房でもつければいい。そう頭ではわかっているが、このタイミングでこの場から離れる気にはなれなかった。動いてしまえば熱が冷める。
 ぐるりと、指を回転させる。肉に包まれた指は思うように動かすことができない。動くことを拒むような締め付けを無視して掻き回せば、びくりと中が震えた。それに気を良くして同じ動きを何度も繰り返していると、震えは身体全体に広がってくる。その反応が面白くて執拗に続行していると蹴りつけられた。それに邪魔をされて動きが止まる。蹴り自体にそれほどの威力はない。体勢的に不利とはいえ、もう少し威力を乗せることくらいはできたはずだ。そうしなかったのは、攻撃がメインの目的ではないからだろう。

「なんでい、ここで適当に準備して後で痛い目みるのはアンタですよ」
「っ、やり過ぎ、なんだよ…!」

 元から強い眼光は更に鋭さを増して、まっすぐに俺を見上げている。この人を組み敷いてからどれくらい時間が経っているだろう。正確なものはわからないが、それなりに時間を費やしているのはたしかだ。焦れるのも無理はないと思う。

「時間をかけて困るもんでもないでしょ。痛い方が好みだってんなら話は別ですけど」
「んなわけねえだろ」
「じゃあ大人しくしててくだせェ。暴れられてうっかり中に傷作るのは避けたいんで」

 あらかじめ爪は短く、丸く切り揃えてある。何かの弾みで傷をつけてしまう確率は低いが、それでも絶対にないとは言えない。痛めつけるのは嫌いじゃないが、それにしたってやり方がある。こういう形は趣味じゃない。
 半ば脅しではあったが、こう言えばもうしばらくは大人しくしているだろう。そう思ったのだが、予想に反して土方さんは引き下がらなかった。

「しつけえんだよ。っは、そうやって弄り回す時間、地味に増やしていってるだろ」
「……気のせいでしょう」

 もう気づいたか。俺の読みではもう少しバレない予定だった。もっと慎重に、少しずつ時間を引き延ばしていくべきだったか。とはいえ正確な時間をはかっているわけでもないだろう。後で何かとぐちぐち言われるかもしれないが、今は気のせいだと言い張ることにしよう。
 土方さんが感づいているのならばこれ以上会話を続けては不利になるばかりだ。ひとまず今は会話をできなくした方がいい。何かを考える余裕がないくらいに振り回してやればいい。手立ては目の前に転がっている。
 抗議を受けてから俺の指使いは緩やかなものになっていた。土方さんが比較的滑らかに話していられるのもそれで余裕ができているからだろう。思考と言葉を奪いたければ指を動かすだけで良かった。
 ぐち、と粘着質な水音が響く。どこにどう触ればイイかなんてとっくに把握している。この人はそんなことは素直に教えてはくれないが、隠しきれない反応はなかなかに素直だ。狙いを澄ませて指を動かせば息を詰める。それから中がぎゅうと強く締まった。そのせいで少しばかり動きにくくはなったが構わず中を擦り続ける。

「っァ、待て、それ、ちょっとまて……っぅ…!」
「ーーああ、もうイキそうです? いいですよ、我慢しなくて」
「ばっ、待てって言っ……ァ! ッッ、く……っふ、ぅ……!!」

 吐き出された精子が土方さん自身の腹をべったりと汚す。これが一発目じゃない。土方さんの腹はもうとっくに汚れていた。それも土方さんのものだ。
 イった直後は走り込んだ時のように息が上がる。それはいくら鍛えても変えようがないもので、見れば土方さんは上がった息を懸命に落ち着かせようとしていた。一分もしないうちに立ち直るだろう。この間に立て続けに攻めるのは流石にやめておいてやる。ただ待っているのも暇で、空いている方の手で土方さんの腹を撫でる。吐き出された精子は腹筋の割れ目を伝うようにして付着している。それを指先でなんとなしに塗り拡げていると手を叩き落とされた。痛くはない。

「何すんですか」
「るせえ。こっちの台詞だ」
「は? 俺が何したってんです?」

 無理やり事に及んでいるわけじゃない。乗り気でないのならもっと早い段階に抵抗があっただろう。行為自体はこの人も受け入れている。それならば何が不満だというのか。

「とぼけんな。……前は、もっと早いとこ切り上げてただろうが。延々指ばっかり使いやがって、何がしてえんだお前」

 前戯が長過ぎると、つまりはそう言いたいらしい。いつから気づいていたんだろうか。自分でも延びている自覚はあった。意識してそうしていたのだから当然だ。いずれ土方さんから抗議があるとは思っていたが予想よりも早かった。有耶無耶にして誤魔化してしまいたかったが、どうやら思う通りには運ばせてくれないらしい。だがまあ、どちらにせよ俺の答えは決まっている。

「好きな相手には優しくして気持ちよくなってもらいたいもんでしょう?」
「!?」

 見下ろす身体に鳥肌が立つのが見えた。失礼な。そこは俺の優しさにときめくところでしょうが。
 その反応に苛立たなかったと言えば嘘になる。だがおおかたこんな反応だろうとは思っていた。そもそも俺はこれまで土方さんに優しく接したことがろくにない。急にそんな真似をすれば不気味がられるのは当然だ。そこまでわかっていてもこうして前戯にしつこく時間をかけたのには理由がある。優しくして気持ちよくなってもらいたい、なんて甘ったるい理由ではない。
 俺達の仕事は危険と隣り合わせだ。危険な現場に出動して、敵を斬り伏せて武力で解決する。それを可能にするためには力がなくてはいけない。筋力、握力、体力。それらを養うためにそれなりに身体を鍛えていて、それは俺も土方さんも例外じゃない。体力は人並み以上にある。それが問題だった。
 俺と土方さんは、総合的な能力値ならばさほど差がないと思う。だが体力という一点を抜き出してみると土方さんに軍配が上がった。この人は余暇さえあれば道場で黙々と稽古をしているようなストイックなところがあるので、そういったものをサボりがちな俺と差がついているんだろう。
 仕事中はそれほど気にはならないのだ。そもそも仕事量が違う。戦い方が違う。土方さんの方が体力の消費が激しいのでバテるタイミングにそれほど差がない。だがセックスとなれば話は違った。ほとんど同じだけの運動をするので体力の差が浮き彫りになる。受け身である分土方さんの消耗の方が早いはずだが、それでもこの人はいつまで経ってもぴんぴんとしていた。それが単純に気に入らなかった。だからやり方を変えたのだ。
 快楽の総量を釣り合わせるから体力の差が目につく。一方的に土方さんの体力を消耗させてしまえばいい。そう考えて至った結論がこれだ。土方さんのためだと嘯いて前戯に時間をかける。その過程でひたすらに快楽を与えて体力を削り取る作戦だ。いくら体力があるとは言っても立て続けに何度もイっていれば当然疲れる。疲労困憊といった様子で脱力している姿はまさに俺が狙っていたものと言えた。

「嘘臭ェ」
「ひでえや、本当ですよ」

 土方さんからは容赦なく疑いの眼差しを向けられる。普段の土方さんへと振る舞いを考えれば疑われるのも無理はない。だがこの人はなんだかんだで甘いので結局は疑い止まりだ。警戒はされるが、これを理由に拒否されることはない。体力的にきつくなってきた時は流石にストップがかかるが、それでもこの程度でバテるのかと挑発してやればかなり限界を引き延ばせるので実質俺が好き放題にできる。
 最初はこの人に負けまいとして取った方法だった。だが続けるうちに楽しくなってきたのは否定できない。決して先ほど言ったような優しいものではない。疲労困憊で指一本動かすのも億劫といった様子の土方さんはなかなかレアだ。それが自分の手で引き出されたものかと思うとぐっとくるものがある。いい言い方をするなら好きな相手の自分しか知らない一面にときめく、だとかそういう感じのやつだ。
 土方さんに時間を割いている間、自分のことはほぼ放置だ。我慢する時間が延びているわけだが、この人を思うままに翻弄できるのならばこれくらいの我慢はどうということもない。

「アンタだって気持ちいい方が楽しいでしょう?」

 立て続けでは辛かろうと一旦止まってやってはいたが、これで終わらせるつもりはない。疲れが見え始めてはいるが、まだ底には遠い。まだいけるだろう。体力の尽きかけたこの人はもっと大人しく、それでも反抗的な眼光は最後まで消えないのだと知っている。身体と心が乖離したその姿を見下ろすの瞬間が一等心が満たされる。それを今日も見たい。何もこれは俺にだけメリットがあるわけじゃない。土方さんはやたらとストイックな印象を持たれがちだが、気持ちいいことが嫌いというわけでもない。指一本動かさずに快楽だけを与えられるのはなかなか悪くないはずだ。
 何度も身体を弄り倒したおかげでコツも掴んできた。どう触れても何かしらの反応はあるが、どうしても波はある。どこにどう触れればいい反応が得られるのかは経験して学んでいくしかない。幸い、そういう地道な努力は苦ではない。この人のこととなれば特に。

「頑なに否定しますけど、こうやって中触られながら胸弄られんの結構好きでしょ」

 腹部あたりで遊ばせていた手を上に滑らせ、胸に行き着く。鍛えられたことによって膨らんだ胸を指先が登り、やがてぷくりと小さく存在を主張する突起へと辿り着く。指で挟んで摘み上げれば中がぎゅうと締め付けられた。それに気を良くして何度も摘み直す。びくびくと震える身体は当人の制御を外れつつある証だ。

「っは、すき、じゃねえって……言ってんだろ、ッ」
「身体はこんなに素直なのに、口の方はいつまでも意固地ですねィ」

 身体が何より雄弁に語っているのだから口で何を言ったところで信じるわけがないだろう。それなのに土方さんは否定をやめない。指だけでぐずぐずに溶かされているという事実を、プライドの高いこの人は認められないんだろう。こんなところでまでプライドを守って何になるのか。理解はしかねるが、そういう頑ななところを好ましく思う。その高いプライドがへし折れる瞬間は、心がひどく満たされるに違いなかった。想像するだけで愉快な気持ちになる。

「ッぁ」

 一等イイ場所に触れたようで土方さんの声は小さく裏返る。そんな声を出してしまったのは不覚だったんだろう。唇が噛み締められ、元より赤かった肌に更に赤みが差した。
 激しい羞恥を感じているのだろう。唇は今にも噛み切られてしまいそうだ。我慢比べも嫌いではないが、この場に血のにおいが混じるのはあまり好きではない。そうなる前になんとかしてその口を開かせなければならない。

「土方さん」

 さて、どうしたものか。口を開けろと言ったところでこの人が素直に応じるはずもない。下手に出てお願いするよりも、強引にこじ開けたタイミングで指を突っ込む方が確実か。この人が俺の手に傷をつけられないことは既に知っている。
 駄目元で呼びかけてみたがやはり応答はない。口を閉じた分呼吸がし辛いのか、息遣いは荒い。返事こそなかったが、その代わりにぎろりと睨み上げられる。涙で膜を張った瞳と、眼光の鋭さはひどくアンバランスでただただ興奮を煽られるばかりだ。
 中のイイところを強めに抉れば土方さんが声なく喘ぐ。だが唇は強く噛み締められたままだった。もう少し強い快楽を与えてやらなければいけないらしい。それならどう触れたものか。手を止めることなくそう思案していると土方さんと目が合う。
 それだけで俺の考えていることを読み取ったのだろう。標準装備の眉間の皺が一層深くなる。やめろと言いたげだ。だが今は口を開けない。それゆえに俺に一方的に与えられるしか選択肢がない。
 逆効果だとわかった上で、にこりと友好的な笑みを浮かべる。それを見た土方さんの目が細められた。口が自由だったのならば舌打ちのひとつはしていたことだろう。反抗的だ。だがなにもできないこの人のせめてもの抵抗だと思えば可愛らしく思えて、俺の笑みは一層深まる。
 それに呼応するようにぶわりとまた、土方さんの肌が粟立った。

ヘヴンズホール

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