※LOVELESSふんわりパロ
 性交経験のない人間の頭上に猫耳が生えてるという部分を拝借してるだけ










沖田と付き合い始めたが、その経緯については割愛する。長ったらしい上にみっともない姿を晒しまくったので話題にしたくない。二人して散々馬鹿みたいに喚き散らして、最終的には沖田の執念の勝ちといったところか。延々と逃げ回って抵抗したものの最終的には合意をもぎ取られ、関係性のちょっとした修正が入ったわけだ。
だがそれで何もかもがあいつのなったわけじゃない。付き合うことにはなった。だがそれでも譲らなかったことがある。
セックスだ。抱くにせよ抱かれるにせよ沖田が成人するまではしないと、その条件が飲めないなら付き合わないと強く主張した。付き合いたいなどと言い出すからにはそういうことも当然考えていただろう。ヤりたい盛りであるところの十代にそんな要求を突きつけるのが酷であることくらいはわかる。随分と渋られはしたが、そこだけは何がなんでも譲る気はなかった。
未成年だという理由付けは今更に思えるかもしれない。十八は一応子供の括りには入れられているが、飲酒を咎められることはないし実際のところの自由度は成人とさほど変わりがない。経済的に自立もしているのに年齢だけで子供扱いされるのは面白くないだろう。そう心中を察することはできるものの、それでも譲る気はなかった。なにせ、こいつと関係を持つのは俺にとってのリスクが多すぎる。せめてひとつでも減らしておきたいと思うのは当然のことだろう。
ほんの二年程度だ。それくらいも我慢できないほどお前の理性は薄っぺらいのか。そう煽り立て、譲る姿勢がないことを示してなんとか沖田から同意を引き出した。そしてそこから何事もなく現在に至る。

「……お前、何してんだ」
「見てわかんねェんで」
「見てわかるから聞いてんだろうが」

呼びかければ、それに反応してぴんと頭の上の耳が立つ。ふさふさと毛に覆われたそれは、音を拾うと忙しなく動く。
人は皆、耳をよっつ持って生まれてくる。顔の側面にそれぞれひとつずつと頭の上にふたつ。頭の方に生えている耳は猫のものと酷似しているため、猫耳と呼称されることが多い。地球人ならば皆猫耳を持って生まれてくるが、大半は大人になる頃にはなくしている。俺にはもうない。
何気なく聞いたつもりだったが声に存外非難の色が混じってしまった。しまったと思いはするものの、出てしまったものは仕方がない。それに非難しても許されるシチュエーションだろう。そう結論付けて下手に言い訳を募るのはやめておく。
沖田は話しかけられたことで視線を上げてこちらを向く。だが手は相変わらず藁を縛り上げている。

「藁人形作ってんですよ。別に初めて見るわけでもないでしょうに」

藁人形は市販もしているが、手作りの方が安上がりでなおかつより効果が望めるらしい。不定期に屯所の庭で丑の刻参りをしたり、何かと俺の写真とセットにして釘を打ち込んでいたりして日々それなりに消費している。ストックがないと嫌らしく、何度かこうして藁人形を手作りしている姿を見かけたことはある。だから何をしているのかは知っている。だが俺が言いたいのはそういうことじゃない。

「ここでやることかって聞いてんだよ」
「はあ」

ここは俺の部屋だ。お互いに休みが合い、なおかつこれといった予定がなかったのか予告なく転がり込んでおもむろに藁人形を作り始めた。いや、おかしいだろ。
百話譲って、休みの日に俺の部屋に来るのはいい。以前ならともかく、今は付き合っているわけだし互いに予定が空いているのなら訪ねるのは自然なことだろう。だからといってデートしようなどと言い出さないあたりが沖田らしいとも思う。思い返してみればこいつとデートなどといった恋人らしいことはしていない。今更どうすればいいのかわからないというのが正直なところで、何も言い出してこないあたり沖田も似たようなものなんだろう。こうしてなんらかの行動に出ようという意欲がある分、沖田の方がいくらかマシであると言えるが。

「それ言うなら刀の手入れ黙々としてんのもどうかと思いますよ」

お返しとばかりに非難の目を向けられる。たしかに、俺は俺で刀の手入れをしていた。元々そのつもりではあったし、沖田は部屋に居座るだけで話しかけてくるわけでもなかったのでその予定のままでいってもいいだろうと判断したわけだ。だがこの様子を見るにその判断は間違っていたらしい。

「なんだ、構ってほしかったのか」

ぴんと立っていた耳がこちらに向けられる。

「は? 言い出したのはアンタの方でしょう」

確かに俺の方から聞いた。だがそもそも始めたのは沖田の方からだ。一切触れないというのも逆にどうかと思うし、何より自室で俺を呪うための藁人形を量産されて黙っているのはどうなんだ。そういうのはせめて俺の目に入らないところでやれよ。そういうのって当事者はもちろんのこと、誰にも見られないようにやらないと駄目なんじゃなかったか。
噛み付くように返されたものの、構ってほしかったことを否定はしなかった。昔から、こいつは素直に言い出せないところがある。甘えたくて言い出せないでいるうちにそれを察した大人達が先に甘やかすものだから素直に甘えるすべを学ばないままここまで来たところがある。俺もまたその大人の一人ではあるので責めることはできないわけで、少しばかり責任を感じていたりもする。
今更素直に甘えろと要求するのは酷だろう。すっかりひねくれて育ったこいつにそれができるとも思えない。
手を伸ばす。それから頭を掻き混ぜるように撫で回す。細く柔らかい亜麻色の髪は乱されたところから頭の形に沿って元に戻る。耳の方は手に押し潰されたぺたりと折れ曲がったかと思えば手が離れた途端にぴんと元の形に戻る。それを何度か繰り返していると乱暴な触れ方を拒否するようにぴるぴると震えた。
頭の方の耳には神経があまり走っていないのでこの程度の触れ方で痛みを覚えたりはしない。だが少し雑に触れ過ぎたとは思う。そう反省して今度は触れ方を変える。
ゆっくりと耳の内側に親指で触れる。薄っすらと毛が生えた内側を撫で下ろしていき、穴に入り込む前に上へと戻っていく。乱暴な扱いを詫びるように殊更丁寧に触れる。猫耳にはあまり体温が移らないのでひんやりとしている。
この耳は、触れられたところで他の部位ほどそれを感じ取れない。沖田がされるがまま撫でられ続けているのもあまり感覚がないからだろう。だがそれでも面白くはないのだろう。不満げにこちらを見上げている。

「あんた、この耳好きですよね」
「あ? そうか?」
「そうですよ。なにかというと撫でくり回して……アンタがヤりたがらねェの、これをなくすのが惜しいからじゃないんで?」

頭から生えた耳は地球人に最初から備わっているものだ。だがどういう原理か、生殖行為ーーセックスをすると落ちてしまう。そのため年齢を重ねるほどに耳を生やしたままの人間は少なくなっていく。セックス経験の有無が一目瞭然となってしまうため、精巧に作られた義耳やファッションアイテムとしての付け耳も数多く出回っている。
沖田の耳は本物だ。どれだけよく作られていても触れれば本物かどうかはわかる。つまりこの耳がなくなればこいつが何を経験したのか、周りの人間にはすぐにわかってしまうということだ。いつどこで、相手は誰なのか。あることないことで周りはさぞ盛り上がることだろう。それがわかりきっているからこそ耳を落とすことになる行為は気が進まないというのはある。だが惜しいというのは思ってもみない指摘だった。

「好きでしょう、この耳」
「……」

好きか嫌いか、という二択でしか返答できないのであれば好きと返すべきだろう。本物を耳を愛好する連中はいるし、そういうビジネスも存在する。だが自分がそういう連中と同じかと言われるとそんなことはないと断言できる。だからそんな風に言われるのは心外だ。

「そんなことねえだろ」

そう憮然と返しつつも耳を撫でる手を引っ込める気にはならない。言動と行動が合致していない自覚はある。でも触り心地がいいものが目の前にあったら触りたいと思うのは当たり前のことだろう。俺だけに限った話じゃない。目の前にあるからといっていつでも触れられるわけじゃない。周りの環境がそれを許さないことが多いし、そもそもこうしておとなしくこいつが撫でられ続けているのも珍しい。本当に構ってほしかったのかもしれない。

「今ヤらねえって言ってんのは未成年のうちは何かと面倒だからだ。あれこれ詮索されたくねえだろ」
「成人してからヤったって詮索はされるでしょ」
「少しはマシだろ。今だと近藤さんが出てくるかもしれねえしな」

沖田は身寄りがない未成年で、今の所の保護者は近藤さんということになっている。基本的には沖田を子供扱いすることもなく自由にさせてやっているとは思うが、あの人が保護者の責任を放棄するとも思えない。未成年のうちに初体験を済ませてしまうのを鷹揚に見逃すのか、それとも相手の把握くらいはしておくべきだと判断するのか、どちらに転ぶのか正直俺にはわからない。だから念の為にこのタイミングで耳を落とすのは避けたい。着け耳という手もあるが、あの人も結構沖田の耳に触る。触れられるとフェイクは通用しない。
こいつとの関係については近藤さんには伏せてある。相手は誰だと探りを入れられる過程でバレる恐れは充分にあった。それは嫌だ。こいつだって嫌だろう。

「それはまあ、嫌ですけど」
「じゃあ我慢しろ。二年程度すぐに過ぎる」
「年食うと時間の流れが早いって言いますよね。でも俺はあんたと違ってまだ若いんでそんなにすぐに時間は経たねェんですよ」
「年寄り扱いやめろ。俺だって若いわ」

撫で続けていた耳から手を離す。数秒間を置いて再び手を伸ばす。すると、ぴんと立ち上がっていた耳がぺたりと倒れた。顔は不満げなままだ。本体とは違って、耳の方がいくらか可愛げがある。そういう意味ではたしかになくすのは少し惜しいかもしれない。

「土方さん?」

そんなことを考えていると中途半端な形で手を止めてしまっていた。それを不審に思われて、訝しげな目を向けられる。ぺたりと頭に張り付いていた耳がおそるおそる持ち上がる。だが再び手を頭に落としていくとすぐざま耳はまた折れ曲がった。
不服そうにしている割に、撫でられる準備はしっかりしている。本当に、耳の方は可愛げがある。惜しい。たしかに、言われてみるとそうかもしれない。
藁人形を作る手は完全に止まっている。なんだかんだ、撫でられる方に意識が向いているんだろう。存外、こいつも撫でられることは嫌いじゃないのかもしれない。耳がなくなれば撫でる回数は格段に減るだろうし、そう考えると耳を落とすのはこいつにとってもデメリットがあるように思う。だがそう指摘しても心底不本意そうな顔をされるのは目に見えていたので指摘はせず、心中のみにしまい込んでおいてやることにした。

未成年の猫

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